ご近所の玄関に、小さく「犬」とだけ書かれたシールが貼ってあるのを見かけたことはないでしょうか。犬を迎えたばかりの方なら、「玄関の犬シールって義務なの?」「うちも貼らないといけない?」と気になるかもしれません。
先に結論だけお伝えすると、国の法律で義務になっているのは、鑑札と注射済票を犬に着けること。玄関の「犬」シールは国の法律には出てこず、地域の条例によって「表示してください」と決められているところと、そうでないところがあります。
玄関の「犬」シールは、何のために貼ってある?
あの小さな「犬」のシールは、自治体の案内では「標識」や「門標(もんぴょう)」と呼ばれています。役割はシンプルで、「この家には犬がいます」と外から分かるようにすること。
もともとは、犬による事故を防ぐ目的で、飼い主に「犬を飼っていることを表示する」ことを求める地域があり、その表示用に自治体が配ったり、印刷用のデータを用意したりしているのが「犬」のシールです。自治体の案内を見ると、登録のときや毎年の手続きのときに、鑑札・注射済票と一緒に渡される流れになっています。
つまり「犬」シールは、飼い主が自分のために貼るものというより、まわりの人への表示という性格のもの。郵便や配達の方、近所の子ども、訪ねてきた人が、玄関先で「ここには犬がいるんだな」と分かるためのもの、と考えると腑に落ちやすいと思います。
「犬」の標識は義務?——国の法律で決まっているのは鑑札まで
ここが一番気になるところだと思うので、順を追って見ていきます。
犬を飼うときの基本のルールを定めているのが、狂犬病予防法という国の法律です。飼い主に求められているのは、大きく2つ。
- 犬を市区町村に登録して、交付された鑑札を犬に着けること
- 年1回の狂犬病予防注射を受けさせて、注射済票を犬に着けること
どちらも首輪や胴輪など、犬の体に着けるものです。着けていない場合の罰則(20万円以下の罰金)も、この法律に書かれています。
一方で、玄関に「犬」の標識を貼ることは、この法律にも、法律の細かい決まりを定めた施行規則にも出てきません。玄関の「犬」シールは、国の法律で義務とされているものではない、というのが国の法律の範囲です。
「じゃあ、どうしてうちの地域では配られたの?」と思いますよね。それが次の話です。
地域によっては、条例で「表示」が決まっている
国の法律とは別に、都道府県や市区町村には「動物の愛護及び管理に関する条例」があります。この条例で、犬を飼っていることを外から分かるように表示するよう定めている地域も。
たとえば兵庫県では、条例の第33条で「犬を飼養している旨の標識を玄関等の見やすいところに掲示すること」が飼い主に義務付けられていて、県が「犬」の標識の印刷用データを公開し、飼い主が自分で印刷して貼る形になっています。千葉県でも、条例の第12条により「公衆の見やすい方法で犬を飼っていることを表示する」ことが求められていて、市が門標(犬シール)を配っている例があります。
ただ、その千葉県内の船橋市では、以前は決められた様式のシールで表示する義務がありましたが、令和3年7月からは任意の形式で表示できるようになったと案内されています。配布も「登録・転入時のみ」になったそうです。
まとめると、こんな感じになります。
- 兵庫県・千葉県のように、条例で「表示」を求めている地域がある
- 船橋市のように、「決められたシールで」から「形式は任意」へ、配布も「登録・転入時だけ」へ変えた市もある
- 条例に表示の定めがない地域では、貼るかどうかは飼い主の判断
ここに挙げたのは執筆時点(2026年9月)の例で、条例の内容や配布の運用は自治体ごとに違い、変わることもあります。お住まいの地域がどちらなのかは、市区町村の「犬の登録」のページを見るのが早道です。「標識」「門標」「犬シール」といった言葉で探して見当たらなければ、担当窓口に聞けば済みます。
「狂犬病シール」との違い
「狂犬病シール」と呼んでいる方もいて、玄関の「犬」シールと同じものなのか、少し混乱しやすいところです。
「狂犬病シール」と聞いて思い浮かぶのは、たぶん次のどちらかだと思っています。ひとつは、予防注射のときに交付される注射済票。これは犬に着けるもので、玄関に貼るものではありません。
もうひとつは、注射済票と一緒に配られる「犬」シール(門標)で、こちらは玄関用。佐倉市の案内では、毎年の手続きのたびに新しいものが交付され、注射済票と同じように色が変わると説明されています。つまり、玄関に貼るほうの「狂犬病シール」は、この記事でいう「犬」シールと同じもの。犬に着ける注射済票のほうと、呼び名が混ざっているだけです。
玄関の「犬」シールに、防犯効果はある?
「犬がいると分かれば泥棒が避ける」という話を聞いたことがあるかもしれません。犬がいる家は吠える可能性があるので抑止力になる、という見方がある一方で、留守がちなことまで伝わってしまわないか、と心配する見方もあります。
どちらが正しい、というより、書く内容と貼り方しだい。このあたりは、「ペットがいます」サインと防犯の関係を整理した記事がありますので、気になる方はそちらをどうぞ。

自治体のシールと、市販の「犬がいます」サインは何が違う?
ここまでの話で、「じゃあ役所のシールを貼っておけば十分なのでは?」と思う方もいるでしょうし、「100均のシールでもいいの?」と思う方もいるでしょう。
自治体の「犬」シールは、あくまで「犬を飼っています」という表示のためのもの。小さくて、デザインを選べるものではありません。一方で、市販の「犬がいます」サインは目的が少し違います。「チャイムを鳴らすと吠えてしまうので、押さずに置き配してほしい」「ドアを開けたときに飛び出すことがあるので、少し待ってほしい」——来る人へのお願いを伝えるためのものです。
違いを表にしてみます。
| 鑑札・注射済票 | 自治体の「犬」シール | 市販の「犬がいます」サイン | |
|---|---|---|---|
| 誰が出す | 市区町村 | 都道府県・市区町村 | 自分で選んで買う |
| どこに | 犬の首輪など | 玄関など見やすい所 | 玄関ドア・インターホン横 |
| 義務? | 国の法律で義務 | 地域の条例による | 任意 |
| 伝えること | 登録・注射済み | 犬を飼っている | 来る人へのお願い |
100均のシールでも「犬がいる」ことは伝わります。ただ、外したり持ち運んだりする使い方をしたいなら、貼って剥がせるマグネットのほうが向いていることもあり、その違いは別の記事で比べています。

英語で書くなら?
最近は、Uber Eats や Amazon の配達などで、日本語が母国語ではない配達員さんに出会うことも増えました。「犬がいます」「チャイムを押さないで」が日本語だけだと、せっかくのお願いが伝わりきらないことも。英語をひとこと添えておくと安心です。よく使われるのは、こんな言い方です。
- Dog on premises(犬がいます)… 伝えるだけの、やわらかめの言い方
- Beware of dog(犬に注意)…「猛犬注意」に近く、少し強めに伝わります
- Please don’t ring the bell(チャイムを押さないでください)
日本語と英語を並べて書いておけば、どちらの配達員さんにもひと目で伝わります。置き配やチャイムのお願いをもっと英語で書きたいときは、置き配・チャイムのお願いを英語でに文例をまとめています。
「家に犬がいます」を、感じよく伝えるという選択肢
義務かどうかとは別に、「家に犬がいます」と伝えておくこと自体には、日々の小さな助けになる面があります。配達の方がチャイムの前にひと呼吸おいてくれたり、来客が「ドアを開けたら飛び出すかも」と心づもりしてくれたり。吠えるたびに「また鳴らされた…」と気を張ってしまう飼い主さんにとっては、その一枚が玄関まわりの空気を少しやわらげてくれることがあります。
役所のシールは、どちらかというと事務的な見た目で、玄関の雰囲気に合わせて選べるものではありません。うちの子のシルエットで「犬がいます」「チャイムを押さないで」を伝えられるマグネットサインなら、玄関になじみながら、必要なことはきちんと伝わります。

条例で表示が求められている地域なら、自治体のシールと並べて。そうでない地域なら、こちら一枚だけでも。「義務だから」ではなく「伝えておくと少し楽になるから」で選ぶ、という考え方もあると思います。
まとめ:まず自治体の案内を確認、そのうえで「伝え方」を選ぶ
玄関の「犬」シールが義務かどうかは、お住まいの地域の条例しだい。ただし、この記事は法律や条例の専門的な解説ではなく、飼い主として知っておきたい範囲を整理したもの。判断に迷うことがあれば、市区町村の担当窓口や保健所に聞くのが確実です。
もらったシールがあるなら、貼る場所さえ選べば、貼っておいて困ることは特にないはず。地域の決まりが気になる方は、市区町村の「犬の登録」のページを一度のぞいてみてください。そのうえで、「うちの子がいることを、どう伝えたいか」を考えてみると、玄関まわりが少し整えやすくなるかもしれません。




